ミューと近鉄奈良駅前の噴水で待ち合わせた。驚いたことに、ミューはすでに来て待っていた。仕事をはじめたせいか、やっと時間に遅れない人になれたようだ。夫の減給も悪くない。
ミューは私を見るとうれしそうに手をふった。元気そうだ。
「キャー。一年ぶり―」
大仏様にお参りして、それから昼ご飯を食べよう、という約束どおり東大寺への坂を歩き出す。キンモクセイが散って、秋も本格的に深まりだした。
公園や若草山が、続く山々のせいか、市内循環バスの外側は「里」の気配がする。ヨーロッパの石の街と違って、奈良は街の中心部にまで木や草や土のにおいがして、むしろ時代の先端をいっている。
「新しいバッグだよ」
仕事にもなれておしゃれなミューに戻ったようだ。ほおもふっくらしている。
「ゴブラン織り、かな」
「当ったりー」
東大寺の参道に沿うみやげ屋は昔ながらの奈良を残してくれている。奈良の風景にとけてしまいそうに寄り添っている。夜になると木の雨戸に鹿の陰が行き来する道だ。
過去から現在、未来、日本のどれだけ多くの人がこの道を通ったことだろう。通ることだろう。世界史に名を残した人も歩いたろう。
堂々とした道。奈良にゆっくり流れる不思議に濃密な奈良時間。
「庶民らしく門の外からお参りしましょう」
という私を、ミューはおかしそうに笑った。
子どもが大きくなったせいか、夫や子どものことでなく、自分のことをお願いできるようになった。手を合わすと、自分があたたかく、ひっそりしたものになっていた。
ミューの願いはなんだろう。
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