道からはじまるストーリー

第51話 「娘の転校で感じた風」

2006.11.24

 「奈良でお友達ができますように」
  半年前、京都から奈良に引っ越した。小5の次女にとっては初めての転校。春休み、京都から電車に乗り、前もって新しい学校に挨拶に行ったとき、娘はお地蔵さんに出会うたびに深々と頭を下げていた。

 「やっぱりお昼食べてから行こうか」
  人見知りが激しく、照れ屋の娘。駅からやすらぎの道を南に下る道すがら、ずっと学校到着を遅らせる口実を並べていた。

 「今日を乗り越えたら、次からはどんどん楽になるだけだよ」
  5年前、長男が入院して落ち込む私に次女がかけてくれた言葉をそっくりお返しした。

 新しい学校は百年以上の歴史がある由緒あるところだった。二宮金次郎の像があり、玄関の木でできた靴箱は懐かしくて、私が子どものころに通った校舎の匂いがした。新たな出会いに心弾む私の横で、娘は緊張した面持ちのまま直立不動で立っていた。

 「早く京都に帰りたいよ」
  娘の泣きそうな声に胸がいっぱいになった。

 それから数日後、引っ越して新学期も始まった。最初は学校までの道もなかなか1人で通えず、親子で歩いていった。その距離も次第に短くなり、一週間もすると、たくさんの友達が家に遊びにくるようになった。久しぶりの娘の笑顔を見て、私もひと安心した。

 「お母さん、ちょっと性格を変えてみたら、友達がすぐできたよ」
  その自信にあふれた表情に娘の成長を見た。親があれこれ心配しなくても、子どもは自分で力を蓄えているものだと思った。

 この土地が娘を強くしてくれた。奈良の人情にあふれた温かい風が、娘の背中をそっと押してくれているのかもしれない。あの日、初めて娘と歩いたやすらぎの道を、今度は1人で戻った。
  「ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」とお地蔵さんにお礼を言いながら。

奈良市 竹下ひろみ 47歳

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 この魯迅の『故郷』の中の言葉がエッセイ「私のすてきな道」のスタートでした・・・・・

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