道からはじまるストーリー

第59話 「銀杏並木」

2007.02.02

 私の住む団地をはずれると、東に向かって長い銀杏並木が続く。
  五百メートルほどあるだろうか。この並木道を通り抜けて、息子たちはさらにその向こうにある幼稚園に通った。

 園の方針で幼稚園バスは使わない。車での送り迎えもしないでほしいという。
  当番の母親に引率されて、20人ほどの子どもたちは、30
分かけて長い道を歩いた。

 朝はまだしも、1日遊んで疲れた幼い体に帰りの道は遠い。

 春、まだ慣れないころ、銀杏並木に差しかかると「しんどい。もう歩くのいや」と、道に座り込む子がいた。
  そんな子をなだめていると、向こうでも「おんぶして」としゃがみ込む子がいる。

 夏、植えられて間もない銀杏は、まだ細く陽射しを遮ってくれる枝も葉も小さい。
  子どもたちは顔を真っ赤にして歩いた。元気のいい男の子は上着を脱ぎ、上半身裸になって歩いた。

 並木が終わるころ、団地が見え始める。「やったぁ。お家が見えたあ」と駆け出す子もいた。

 秋は、黄金色に映える葉を仰ぎ、落ち葉を拾いながら、冬は木枯らしに震える枯れ枝の下を、首をすくめて歩いた。

 あれから20余年。

 銀杏は太くなり、枝は伸び、葉を茂らせた。幼稚園はバスでの送り迎えを始めた。

 もう集団での通園風景は見られない。

 社会人になったあの子たちは、もうこの道を歩かない。銀杏の落ち葉を舞い上がらせ、車で一気に走り抜ける。

 今、この道を私は、老犬と一緒に散歩している。

宇陀市 関本進 63歳

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