道からはじまるストーリー

第80話 「朝靄にかすむ道」

2007.07.13

  仕事柄、私は月に何度か始発電車で帰宅する。
  朝が生まれたばかりの早朝、私は近鉄二上駅の改札をくぐる。わずかな仮眠時間で働く駅員さんは疲れた顔で昨日をひきずっている。

 しかし、地下通路を通って地上に出ると、そこに昨日の喧騒さは見当たらない。ほこりと排ガスにまみれた昨日の姿はすでになく、ホームページを更新したように、朝靄に包まれた手付かずの今日がそこにある。

 丘陵地を開発したニュータウンの自宅まで10分ほどの距離だ。このわずかな道程が私に至福の時を与えてくれる。新雪の中に歩を踏み出すように、卸したての今日に歩を進める。

 都会的に整備された駅前の景色はすべてがすがすがしく見える。点滅する信号機のランプは、私が仕事をしている間に取り換えたかのように鮮やかだ。バスのロータリーも昨日舗装したばかりのように錯覚する。柔らかな光が差し込む終夜営業のスーパーやコンビニエンスストアも、淀んだ昨日を払拭し新しい朝を前面に打ち出している。

 仕事を終えた解放感と澄み切った朝の空気がいつもの道を特別な道に変える。何だか遠回りして帰りたい気分になる。

 丘を切り開いた閑静な住宅地を行くと白い大きな犬がしっぽを振って出迎える。剪定された家々の木々が朝露に濡れてみずみずしい。

 自宅前に着くと私は後ろを振り返る。眼下には街全体と歩いてきた道程が見渡せる。私の家はニュータウンのてっぺんだ。早朝の街はまだ人影もまばらで、大阪へ続く幹線道路の交通量もしれている。新しい朝を独り占めにしている気分だ。

 しばらくして、今来た道にぺこりと頭を下げる「おはよう。そしてお疲れさま」と。
  さぁ、今日もいい一日になりそうだ!
  ドアを開け、私はしばしの眠りに身を任せる…。


香芝市 中井美貴 26歳

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 この魯迅の『故郷』の中の言葉がエッセイ「私のすてきな道」のスタートでした・・・・・

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