道からはじまるストーリー

第81話 「人生をきめた道」

2007.07.20

  今から51年も前に初めて歩いた道。
  その道から私の人生はスタートした。

 「矢切の渡し」を実行した、昭和31年9月初秋の夕暮れ。夕焼けを背に受けて友人の紹介で見つけた部屋にたどる、一筋にのびた田舎道だった。

 当時は行き交う人も車も淋しい野道だった。24歳の私は、7年間の初恋を貫くため、2人で家を出た。最小限の手荷物のみを持って…。

 でも、心の中は少しの不安と明日からの生活への希望が葛藤していた。

 その道は、高畑の教育大学前から南へ約100mほどきて、山村線と田原、山添村へと続く三叉路になっている。
  この三叉路で2人は立ちすくんだ。

 この坂道を進めばもう戻れないのだ。でも、迷いを吹っ切って手探りで歩いた青春の道。その村の1つの部屋から2人の何もない暮らしは始まった。

 その次の日から2人で懸命に働いた。

 そして初冬から年の暮れへと季節はかわり、その坂道を歩いてお正月のおせち料理とお餅をそっと届けてくれた私の母。何もない2人を案じて許すかのように、家具を送ってくださった義母。

 その部屋に10カ月お世話になり、町に移って無我夢中で働いた。

 その歳月の間、お世話になった家主さんには、いつも感謝していた。そしてその家主さんのご厚意であの時立ちすくんだ場所、そうあの三叉路のちょうど基点にある田を譲っていただき、その場所に家を建てた。

 何も持たず、結婚式もあげずの私たち2人の人生も75歳になった今、この家の2階から眺められる一筋の道は、遠い日のそのままだ。

 夕陽に映える道は、私に人の幸せを運んでくれた大切な道だ。


奈良市 本田順子 75歳

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 地上にはもともと道はなかった。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。
 この魯迅の『故郷』の中の言葉がエッセイ「私のすてきな道」のスタートでした・・・・・

わたしのすてきな奈良の道





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