道からはじまるストーリー

第84話 「ふる里の薫りする山の辺の道」

2007.08.17

 「ホー、ホケキョ」
 お手本通りのウグイスの声を聞きながら、柳本から三輪まで、山の辺の道を行く。

 頬撫でる風の中に、ほのかに甘いクローバーの香り。そよ風を胸いっぱいに吸い込んで「これがふる里の薫り。やっぱり、奈良はいいなぁ」。しみじみ思う。

 キラキラ輝く若葉の陰に、柿の花を見つけた。花もカキ色だと知った。ミカンの花も咲いている。「花も甘酸っぱい香りがするんだ」。ちょっとした発見にも心が弾む。

 無人販売所で小指の先ほどのサクランボを買った。予想以上に甘くて美味。行儀悪いけど、プップッと種を飛ばしながら歩く。「この種が芽を出して、この辺りが桜並木になったらいいなぁ」。足取りも軽く、まるで子どもに還ったよう。

 山が迫り、道は山の中へと続く。その手前、山すその急な坂道で、杖を頼りに歩く男性を追い抜いた。「どこまで行かれるのだろう。1人で大丈夫かしら」。ちょっと気にかかる。

 木漏れ日の山道は、小石がゴロゴロ。心細くなるほど静かだ。三輪神社が見え、人の声が聞こえてほっとした。それも束の間、急に空が暗くなり、稲妻とともに、しのつく雨。

 神の祟りか。天罰か。入念に参拝して社務所の軒先で雨宿りさせてもらう。

 恨めし気に空を見上げているとき、右手に杖、左手に傘を持った老人が通り過ぎた。登り坂で追い抜いた男性だ。

 この雨の中、あの山道を歩いて来られたようだ。私は軒先で身を縮めていることが恥ずかしくなって、雨の中へ踏み出した。前を歩く男性の背中が大きく頼もしく見える。たとえ歩みが遅くても、しっかり大地踏みしめ、進むことの大切さを教えられたように思う。

 山の辺の道。ふる里の甘い薫りに包まれた優しい道。人生の起伏にも似た厳しい道。


東京都 竹内千恵子 52歳

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 この魯迅の『故郷』の中の言葉がエッセイ「私のすてきな道」のスタートでした・・・・・

わたしのすてきな奈良の道




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