道からはじまるストーリー

第85話 「青春がよみがえる道」

2007.08.24

  小西通りは今日もにぎわっている。
  近鉄奈良駅から南へ、三条通りに至る間には、スーパーマーケットやコンビニもできた。ファンシーショップや美容院もある。通りには、七夕にあわせて笹竹が両側に何本か立てられている。

 色とりどりの短冊が風に揺れ、笹の葉がさわさわと音をたてていた。

 遠い遠い、半世紀も昔の話。

 後ろから聞こえていた口笛がやむと同時に、軽いブレーキの音。Nさんである。

 「遅くなってごめん。公園のほうに行こうか、話がある」

 小西通りのレコード店の前あたりから北へ、ゆっくりと自転車を押して歩くNさんのズック靴の白さがまぶしかった。

 質屋の角を右へ。東向き通りを横切って東へと、道はゆるいのぼりになる。坂道を登りきると左手には北円堂。

 突然「東京行きが決まった。来月中ごろ」と言うと立ち止まって、天を仰ぐような格好をしたNさん。子どものいない伯父の家を継ぐため、いつかは東京に行くことになるとは聞いていた。だがそれが決定した、と聞くとやはり少なからずショックだった。

 淡い付き合いであったけれど、一年余りの間にはお互いの気持ちが徐々に深くなっていくのを感じていた。
  思わず涙ぐんだ。

 手紙のやり取りをする日が続いた。しかし、それもだんだん間遠くなって、ある日、どうしても断れなくて結婚する、とのNさんからの便りを最後に私たちの間は終わった。

 小西町から東向通りを横切り、北円堂に至る道。
  しばらくは辛くて通れなかったこの道。だが、あれから半世紀という年月は、私の心を癒してくれる年月でもあった。

 町のたたずまいもすっかり変わってしまった。だが、青春の思いのこもった道を、私は今日もゆっくりと歩く。ゆっくりと。


奈良市 堀岡登志 75歳

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 この魯迅の『故郷』の中の言葉がエッセイ「私のすてきな道」のスタートでした・・・・・

わたしのすてきな奈良の道





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