道からはじまるストーリー

第95話 「阪奈道路」

2007.11.02

 遠い遠い昔、記憶も定かではないほどの遠い昔の思い出だ。

 三人姉弟の真ん中の長男が幼稚園に入園して間もなくのころだった。
  その頃、幼稚園は阪奈道路の下をくぐり抜けて、大人の足でも家からは20分以上もかかるところだった。当時は車の数も少なく、今のように物騒な事件もなかった。田園風景の中、子どもたちはのんびり通園していた。

 ある朝、受け持ちのY先生から「雅人君が園にいません。お家に帰ったのかもしれません。注意してあげてください」と電話が入った。

 生まれて初めて親の下を離れて心細かったのだろうか。あわてて次男を自転車に乗せて園に向かった。

 しばらく走ると、前方の阪奈道路の下を上靴をはいたままの彼が必死になって帰ってくる姿が目に入った。
  心配でたまらなかった気持ちが思わず「どうして帰ってくるの」とどなりつけてしまった。

 自転車を押して、彼を園まで連れて行ったときには、どっと疲れが出てしまった。

 今から思えば三人姉弟の真ん中の彼にはほとんど手をかけてやることがなかった。また、手のかからない子だった。
  ただ、最初のころは幼稚園へ行くのを嫌がっていた。しかしよくしたもので、そのうちにお友達もでき、園にもなれて楽しく通園してくれた。

 今現在、その阪奈道路も第二阪奈ができ、高架工事がすすみ住宅も自動車も増えてそのころの風景は様変わりしている。
  幼稚園、小学校も近くにできて、子どもたちは阪奈道路の下をくぐり抜けて通園することもなくなった。

 しかし、その道路を見るたびに必死になって帰ってきた長男を思い出す。姉弟の中で一番独立心が強く、今は遠い千葉県で家庭を持って過ごしている。ほろ苦く、懐かしい阪奈道路だ。


奈良市 櫻井道子 70歳

写真

前の記事へ 一覧表ページへ戻る 次の記事へ
『道-私のすてきな道』
好評発売中!

 地上にはもともと道はなかった。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。
 この魯迅の『故郷』の中の言葉がエッセイ「私のすてきな道」のスタートでした・・・・・

わたしのすてきな奈良の道





Web版リビングダイヤル 【教えます】 家庭教師の無料体験学習! 広告掲載案内


トップページ会社概要広告の掲載サーチ登録案内事業紹介ご利用の注意事項サイトマップお問合せ


当ホームページが提供する情報・画像を、権利者の許可なく複製、転用、販売することを固く禁じます。