道からはじまるストーリー

第101話 「佐保路の雨」

2007.12.14

 雨が降る、土砂降りの雨が降るとつぶやいて、ふと昔こんな詩を書いたことを思い出す。私の心にも降る―と続く。まったく今も同じ思いでバイクのエンジンをかける。

 ここJR奈良駅前から帰路につく。踏切を越え、最初の信号を右に曲がる。次は、左に行けば中央郵便局や銀行、NTT、ハローワークと奈良市のメインストリートだ。奈良警察署や市役所にもでる。
  が、私は直進して芝辻の裏通を行く。ここも結構混むので、暮れなずむ街の灯りの中を、ただ懸命に走る。このあいだ72歳になったカラオケ屋のママ。と言えば聞こえがいいが、

 ♪雨が降るから会えないの 来ないあなたはヤボな人…

と、古い歌をうらみがましく来ない客を待った1日。ここに出て4カ月、私は選択を間違ったのか、とちょっと立ち止まるのは人生行路の方だ。

 佐保川沿いの道をなお走る。川辺の赤まんまの大きさ強さに驚いた朝もあるが、暮れて見えない。
  秋の桜並木では絵にならないが、春から葉桜の季節もいい。桜落葉という言葉があるかどうか、桜木が紅葉が早く最初に散り始まるという。

 万葉の佐保路にかかる。私は、一条高校の道路と呼ぶのだが、最近拡張整備され、走りやすくなってありがたい。右横道に入れば、万葉の歌碑に出合える情緒があり、左に入れば法華寺さん。雨とは言え、寺の外観が白い築地に囲まれくっきり浮かぶ。樹木も墨絵のように美しい。

 一条高校の庭には、保育士をしていた時、大きな木の梢に、カラスの巣があって感嘆したものだ。この道を散歩した子らもカラスも今はどこにいったのだろう。

 もう50年近くもなるが、息子をおぶって法華寺から平城宮跡辺りの貧しい我が家まで、よく歩いたものだ。

♪帰ろ帰ろと何見て帰ろ 寺の築地の影踏みく帰ろ…

と唄い聞かせながら。

 あーもう家が近い。この間、約20分。降りしぶく雨の中を、緑のシグナルがあがる。


奈良市 大森富士子 72歳

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