道からはじまるストーリー

第113話 「はるかなる山道」

2008.03.21

  まさかと思ったがやはり雨だった。家を出たときは晴れだったのに…。
  とは言え、ここは島国日本にあって、世界有数の多雨地域だ。年間の300日が雨というくらいだから、ここではこれが日常なのだろう。

 上北山村の路面は寂しく雨に光っている。車窓から見える渓谷や森林は霧に覆われ、早くも異国の趣だ。わざわざここまで来た理由はただ1つ。はるか彼方の富士山を見るためだ。雨上がりの晴れた朝、年に数回だけ富士の雄姿が拝めると言う。

 今夜、夫と二人で麓の宿に泊まり、早朝に大台ケ原山頂展望台を目指す。
  大台ケ原ビジターセンターを起点にいざ歩き始めると、はたしてここは奈良なのかと疑いたくなる風景が続く。
  ブナやカエデの林を唐突に清流が切り裂くかと思うと、立ち枯れしたトウヒに苔むす絶景が姿を現す。野生の鹿にさえ当たり前のように出くわす。まさに大自然だ。

 文明的なものといえば、足元の木道と石段ぐらいか。また大蛇 から望む、たぐいまれなる情景は中国の深山か南米のアンデスに迷いこんだかの錯覚に陥る。未体験の自然美に疲れを感じる暇もなく山頂に到着したものの、残念ながら山頂はガスに曇り富士の姿を目にすることはできなかった。

 それでも私の胸中は満足感で一杯だったし、もう一度引き返して一歩一歩踏みしめながら歩きたいほどだった。

 大台ケ原ドライブウエイは、11月から4月まで閉鎖されているらしい。今すぐ行くことは無理だが、年も変わりドライブウエイの再開も近い。富士山の姿を見ることができるのは千載一遇かもしれない。
  でも私にとってそれは大きな問題ではない。私は大台ケ原が好きなのだ。あくせくした日常を忘れるのにテーマパークやリゾートホテルもいいかもしれない。でも私は山歩きの方が性に合う。さて、そろそろトレッキングシューズでも買おうか…。


京都市 三嶋明子 36歳

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わたしのすてきな奈良の道





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