特集
万葉 恋の歌を訪ねて


 わが国で一番古いと言われる歌集「万葉集」。奈良時代に編纂され、約4500首の歌が収められています。男女の恋愛を詠じた歌も多く、およそ1300年の時を経た今も、私たちの心を打つものがあります。万葉の歌を訪ねに、県内を巡ってみました 。



歌われた万葉植物を訪ねて
紫草の にほへる妹を 憎くあらば
     人妻ゆゑに 我恋ひめやも
                大海人皇子(1-21)
 大海人皇子(おおあまのみこ)が額田王(ぬかたのおおきみ)へ返歌として送った歌の中に「ムラサキ」の花が登場します。誰の妻であろうと、ムラサキの花のようにひときわ美しいそなたが恋しい…。万葉集には草木を詠み込んだ歌が多数あり、恋心を四季折々の花々になぞらえ、見事に表現しています。昭和7年に万葉植物園として開園した春日大社神苑には、万葉集に詠まれている草、木、花が約300種が植えられています。3月下旬から咲くカタクリをはじめ、ムラサキ、オオガハス、ナンバンギセルと季節ごとに開花し、訪れる人を楽しませてくれます。また、苑内には至る所に歌碑が点在しており、万葉風情に浸れる空間です。「自然の中に、ひっそりと自然のままに生えている姿を味わってもらえたら」と同苑の木多倫浩さん。珍しい子福桜と三波川冬桜が、今、見ごろを迎えています。


ゆかりの地で感じる歌の心
 国営飛鳥歴史公園高松塚周辺地区に次のような歌碑があります。
立ちて思ひ 居てもそ思ふ 紅の
     赤裳裾引き 去にし姿を
                     (11-2550)
 「立っては思い、坐っても思う 紅の赤い裳の裾を引いて去った娘の姿を」と、恋しい気持ちを歌っています。飛鳥は、“万葉のふるさと”と言われるほど、多くの歌が詠まれた舞台でもあります。南都明日香ふれあいセンター犬養万葉記念館は、その明日香村に平成12年に開館。全国の万葉故地を歩き、万葉風土学を提唱した故犬養孝氏の足跡をたどれる場所として、多くの万葉ファンが訪れています。「生活と歌が、いかに密着していたのかを知ることができ、歌の心を感じられるのが、万葉ゆかりの地を訪ねる魅力です」と、同館学芸員の辰己和余さん。
明日香川 明日も渡らむ 石橋の
     遠き心は 思ほえぬかも
                     (11-2701)
 「飛石の間隔のように、遠く隔てた気持ちなど持ってはいませんよ」と、石橋を恋とかけて詠じられたこの一首は、今もその名残をとどめる飛鳥川の飛び石近くの歌碑に刻まれています。さらさらと流れる川の水を見ていると、当時の情景が目に浮かびます。


 探してみよう 共感できる歌
あかねさす 紫草野行き 標野行き
     野守は見ずや 君が袖振る
                     額田王(1-20)
 あなたに会えてうれしいけれど、番人が見ているではありませんか。あなたが袖を振るのを…。額田王が詠んだこの歌は、先月、奈良県立万葉文化館で開催された第4回新春万葉歌留多大会で優勝した取田悠希さんが好きな歌でもあります。2回目の出場で、見事優勝の栄誉に輝いた取田さんですが、年齢は10歳。才色兼備の万葉歌人と伝えられている額田王は、老若男女の幅広い層に人気があります。奈良県立万葉文化館は、万葉の世界をさまざまな形で体感できる施設です。一般展示室の歌の広場では、歌垣に興じる様子や万葉歌人について知ることができます。同館ボランティアガイドの寺崎純湖さんは、「万葉集の中には、美しい恋の歌もあれば、ユニークな歌もあります。読まれる方ご自身が、さまざまな解釈で万葉歌人の心を感じてもらえれば」と話します。共感できる歌とのすてきな出合いを探しに、足を運んでみてはいかがでしょう。


歌碑を訪ねてぶらり冬散歩 〜鏡女王墓〜
 忍坂バス停から東へ入り、坂を登りながら集落を抜けます。そのまま舒明天皇陵の下の細道を歩いていくと、雪解け水が流れる小川に寄り添うように、万葉仮名で『秋山之樹下隠逝水乃吾許曽益目御念従者』と記された歌碑があります。 [地図へリンク]
秋山の 木の下がくり ゆく水の
     吾こそまさめ 思ほすよりは
                  鏡女王(2-92)
 鏡女王(かがみのおおきみ)は、近江国野洲郡鏡里の豪族・鏡王の娘で、額田王の姉と考えられています。歌碑は「秋山の木陰をひそかに流れていく水のように、私の方こそ深く思っているでしょう。あなたが思ってくださる以上に」と、天智天皇への切ない気持ちを歌っていると言われています。そのまま道なりに進むと、まもなく鏡女王墓にたどり着きます。愛する天智天皇のもとから、後に藤原鎌足の正妻となった鏡女王の心中はいかほどだったのか−。しんしんと雪が降る中、ひっそりと眠る墓の前には、静かな冬景色が広がっていました。
鏡女王歌碑  鏡女王墓



万葉の世界に浸ろう

■ 春日大社神苑(旧万葉植物園)  
 苑内にある池の中央のご神域には、ご神木として奈良市の指定文化財にもなっているイチイガシの老巨樹が地に臥せて繁っています。その正面に設置された浮舞台では、春秋の祝日に、奈良時代より絶えることなく春日大社に伝承されてきた雅楽が奉納されます。4月中旬から5月上旬には、藤が見ごろに。20品種約200本が植えられており、ほかでは見られない立ち木造りを観賞することができます。
メ モ
場所 奈良市春日野町
電話 0742-22-7788
▽開苑9時〜16時30分
 1月、2月、12月のみ月曜休苑(祝日の場合は翌日)
▽拝観料一般525円、小中学生262円
▽「春の神苑野外教室」
 4月17日(日)13時30分〜、
 参加費一般1000円。講師は万葉の花研究家・片岡寧豊さん。
ご本殿ご神木
浮舞台を望む。手前は島崎藤村の碑


■ 南都明日香ふれあいセンター  犬養万葉記念館  
 故犬養孝氏と明日香村のかかわりや取材ノートなどを展示。また、万葉風土図書室には約8000冊の寄贈蔵書があり、来館者が憩える喫茶スペースもあります。平成12年に発見された取材ノートをもとに同氏の足跡をたどる企画展では、現在、東国第2弾として、長野・群馬・栃木・福島・宮城の万葉故地12カ所をパネルと取材文で紹介しています。
メ モ
場所 高市郡明日香村岡
電話 0744-54-9300
▽開館10時〜17時(入館は16時30分まで)月曜休館
▽入館料一般300円、小中高校生200円
▽企画展示「犬養孝と万葉故地 東国・陸奥〜神の御坂・榛名山・安達太良山」3月13日(日)まで開催中。
犬養記念館
故犬養氏の足跡をたどろう


  
■ 奈良県立 万葉文化会館  
万葉集の歌をテーマに描いた日本画や、マルチスクリーンで万葉歌人について紹介する万葉劇場など、大人から子どもまで楽しみながら万葉の世界を体感できます。希望すれば、ボランティアガイドによる案内を受けながら観覧することもできるので、ゆっくり時間をかけてめぐってみてはいかがでしょう。新春万葉歌留多大会は、万葉歌50首で作成した同館オリジナルの「万葉歌留多」で、毎年行われています。
メ モ
場所 高市郡明日香村飛鳥
電話 0744-54-1850
▽開館10時〜17時30分(入館は17時まで)、水曜休館
▽入館料一般600円、高大学生500円、小中学生300円
▽新春の万葉日本画展「日本画二代一美の伝承 中庭煖華・隆晴展」
3月13日(日)まで開催中
万葉文化館
渡り廊下には花をうたった万葉歌




関連リンク
万葉集(京都大学電子図書館)
春日大社
犬養万葉記念館
奈良県立万葉文化館



※このページの内容は2005年2月18日現在のものです。









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