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奈良再発見 近代建築をめぐる旅 ~西洋の薫りを感じ~

 奈良の建物といえば、飛鳥や奈良時代など古代の社寺を思い浮かべる人も多いのでは。実は近代にも古社寺が多くある奈良ならではの歴史背景から、良質な建築物が多く建てられています。

 この秋、新しい視点で奈良の近代建築に目を向けてみませんか。

目次

奈良国立博物館 仏教美術資料研究センター(重要文化財)【奈良市・明治35年築】

 奈良県物産陳列所として開館。木造、瓦葺き、しっくい塗など随所に日本の伝統的建築様式が見られる一方で、窓枠などにはイスラム風の意匠も取り入れられた明治時代中期を代表する近代和風建築。

 

現代的耐震技術と歴史的価値の調和 保存と活用の共存

 建築史学者で古寺社保存修理事業に尽力した関野貞が設計。県下の物産展示即売の施設として利用された後、昭和26年に国へ移管され、改装を繰り返しながら利用が続けられて、現在は仏教美術に関する調査研究資料の収集、保管、図書公開を目的に使われています。

 平成23年の耐震補強改修工事では、保存と活用に着目し、建設当時の姿を再現する一方で、現代の耐震技術を見られるような形で行われました。同館学芸部情報サービス室長の宮崎幹子さんは「建物の価値を周知し、多様な活用方法を検討しながら、保存に努めたいです」と話してくれました。

 

中央楼ではウエディングフォトの撮影にも応じている。

 

奈良国立博物館 仏教美術資料研究センター

住所

奈良市登大路町50-1

アクセス

近鉄奈良駅より徒歩15分

TEL

050・5542・8600(ハローダイヤル)

HP

https://www.narahaku.go.jp/

閲覧

毎週水曜日・金曜日、9時30分~16時30分(複写は16時まで)。
祝日・休日、12月26~翌年1月4日は休館。
※当面の間は事前予約制

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南都銀行本店(登録有形文化財)【奈良市・大正15年築】

 旧六十八銀行奈良支店として建築された当時とほぼ変わらない姿を残す近代洋風建築。建物正面には細やかな装飾が施された4本の円柱があり、ギリシャ式建築の壮麗な外観に目を奪われる。

 

壮麗なギリシャ式建築 財産を象徴する「羊の彫刻」も

 地下1 階、地上3階の鉄筋コンクリート造りで、外壁は岡山産龍王花崗岩と褐色レンガ(現在はタイル板)を用いた、壮麗な外観のギリシャ建築で、奈良を代表する近代建築物です。設計は、多くの銀行建築を手掛けた建築家の長野宇平治氏が担当しました。一般の人は見ることができませんが、3階天井裏には装飾が施されています。また、当時近代的設備として設置されたアメリカ製金庫扉や建物正面の柱には羊の彫刻があり、諸説あるそうですが「羊は財産の象徴」とされ、銀行建築に用いられたと言われます。この彫刻は、長野氏と懇意だった東京美術学校教授の水谷鉄也氏によって製作されました。

 

モダンな洋風建築は建設当時から地域住民に親しまれている。

 

南都銀行本店

住所

奈良市橋本町16

アクセス

近鉄奈良駅より徒歩5分

TEL

0742・22・1131(本店営業部)

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志賀直哉旧居【奈良市・昭和3年築】

 志賀直哉が自ら設計。昭和13年まで家族とともに暮らし、ここで暗夜行路を完成させた。奈良学園が復元工事後管理し公開。またセミナーハウスとしても活用し公開文化講座などを定期的に開催している

 

2階建て数寄屋造り 洋風な部分も随所に

 第二次世界大戦後、進駐軍の接収等で改装がありました。奈良学園の復元工事でほぼ志賀直哉が暮らした当時の姿に戻っています。

 数寄屋造りを基調とし、食堂の床の間に造りつけられた牛革ソファ、台所の大きな氷の冷蔵庫、広い天窓で明るい瓦敷きのサンルーム、音が響かないコルク敷きの子どもの勉強部屋など居住性を重視した合理的な工夫が随所に見られます。建物自体が芸術作品といえます。

 志賀直哉は、春日の杜の自然と古美術が豊富な奈良の生活が気に入ってたそうです。

 

二階座敷・客間。

 

志賀直哉旧居

住所

奈良市高畑町1237-2

アクセス

JR・近鉄奈良駅から市内循環バス、破石町下車、東方向徒歩約5分

TEL

0742・26・6490

公開日

年末年始以外の9時30分~17時30分
(12月~2月は16時30分まで)

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宝山寺獅子閣(重要文化財)【生駒市・明治17年築】

 客殿として建てられた寺院には珍しい擬洋風建築。洋館風の外観でありながら、瓦屋根やしっくいの壁など日本的な部分も。ベランダの柱頭には彫刻が木に手彫りされているなど、西洋と和との融合が見られる。

 

日本近代創世記の建物 全面解体修理し公開も

 明治17年、宝山寺第14世住職・乗空の発願により、天皇の勅使などを接待するための客殿として建てられた擬洋風建築。玄関やベランダの出入口扉にはアーチ形の窓や赤・緑・黄・朱・青紫の色ガラスがはめられ、玄関横には木製のらせん階段が設けられています。明治時代のらせん階段で現役で使えるものは全国的にも珍しいそうです。舶来品のくぎが装飾のように使われるなど、日本が近代化する創世記の建物として貴重な姿を残しています。平成になって解体修理が行われ、遷都1300年祭でお披露目。その後は年に数回特別公開を行っています。

 

アーチ形の窓やカラフルな色ガラス、現役で使えるらせん階段など西洋的な特徴も多く見られる。

 

宝山寺獅子閣

住所

生駒市門前町1番1号

アクセス

近鉄宝山寺駅より徒歩10分。駐車場あり。

TEL

0743・73・2006

営業時間

10月9日(土)~11日(月)、11月21日(日)~23日(火)を予定。各9時~16時。
※公開日は変更・中止になる場合もあります。詳しくは宝山寺HP参照。

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城址会館(旧奈良県立図書館・県指定文化財)【大和郡山市・明治41年築】

奈良公園内から移築 郡山城跡に溶け込んで

 元々奈良公園内に建てられた奈良県初の県立図書館。昭和43年に新館が建設されるため、本館が大和郡山市に引き取られて郡山城跡に移築された。現在は学科指導教室として利用されているが土日祝日には見学もできる。

 

貴重な明治期の建築物 車寄せや跳ね上げ式窓も

 奈良県初の県立図書館として明治41年に奈良公園内に建てられた擬洋風建築。昭和43年に図書館が新築される際、大和郡山市に引き渡され、郡山城跡に移築されました。部材は当時のものを使いながらも、市民会館として利用するため間取りは変えられています。正面の車寄せや、入ってすぐ目の前にある階段。跳ね上げ式の窓など近代和風建築の姿を見ることができます。今は市の学科指導教室として利用されており、土日祝日のみ見学できます。「公開してこそ文化財。今後も公開していく方法を考えていきたい」と大和郡山市都市計画課文化材保存活用係の下野俊一さんは話します。

 

両側の壁の中に重りがあり、その重さで窓を開ける跳ね上げ式の窓。

 

城址会館

住所

大和郡山市城内町2(郡山城址法印郭)

アクセス

近鉄郡山駅より徒歩10分。郡山城追手門の横に駐車スペースあり。

TEL

0743・53・1703(市教育総務課)

公開日

(1階ロビー)土日祝日の10時~16時

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旧高市郡教育博物館・現今井まちなみ交流センター「華甍(はないらか)」(県指定文化財)【橿原市・明治36年築】

 今井町の東南隅に建つ。橋本夘兵衛の設計による明治建築。中央2階の本館と平屋の両翼廊からなる左右対称が特徴で和風で落ち着いた外観に仕上げている。現在は橿原市の観光拠点施設として活用。

 

和風の落ち着いた外観 観光拠点施設として活用

 大正天皇ご成婚の際の御下賜金(当時2千円)により教育博物館として建てられた明治建築の一つ。中央2 階の本館と平屋の両翼廊からなる左右対称の建物形式で、正面2階の縁の腰組は雲斗栱風の組物で受けているなど建築的な特徴が数多くあります。全体的に和風で落ち着いた外観が印象的です。これまでさまざまな用途で利用されてきましたが、現在は橿原市の観光拠点施設として活用。今井町の歴史や街並みを知る展示室などを配し2階は講堂に。階段の宝珠柱や高欄、ガラス窓や菱形の飾り窓など館内にも建築的な見どころがたくさんあります。

 

2階の講堂には洋風の要素を取り入れた菱形の飾り窓が。

 

旧高市郡教育博物館・現今井まちなみ交流センター「華甍(はないらか)」

住所

橿原市今井町2-3-5

アクセス

近鉄八木西口駅から徒歩約5分。西隣に有料駐車場あり。

TEL

0744・24・8719

開館時間

9時~17時(入館は16時30分まで)

休館日

年末年始

入館料

無料

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長谷寺本坊(重要文化財)【桜井市・大正13年築】

 徳川綱吉の時代に建立されたが明治44年に炎上。その後再建された際、江戸時代のデザインを踏襲しながらも、随所に西洋風のデザインも取り入れられた。内部は通常非公開だが、昨年より期間限定で特別公開も行っている。

 

大規模な近代和風建築 欄間に西洋のデザインも

 江戸時代に建てられた本坊は明治44年に炎上。その後すぐに再建へと動き出し、設計に古社寺建造物の修理を専門とする技術者が関わりました。さらに京都の和風建築の新築を経験した文化財修理技術者も加わったため、日本の伝統的なデザインを踏襲しながらも最新の技術を取り入れ、意匠に西洋のデザインも使われた近代和風建築として貴重な建物となっています。特に大玄関の正面にある装飾や蟇股(かえるまた)。奥書院の欄間も、密法具を幾何学的に描いた西洋風のデザインを取り入れるなど、近代らしさも覗かせています。

 

通常非公開の奥書院。ほかに120畳の大講堂もある。

 

長谷寺本坊

住所

桜井市初瀬731-1

アクセス

近鉄長谷寺駅より徒歩15分。駐車場あり(有料)

TEL

0744・47・7001

入山料

中学生以上500円、小学生250円

特別公開日

10月16日(土)~12月5日(日)9時30分~16時30分(12月は16時まで)を予定。
外観の見学は他の期間も可能。

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旧名柄郵便局(郵便名柄館・郵便庭園として奈良県景観デザイン賞2016年活動賞)【御所市・大正2年築】

 桜色の外観は当初の色。昭和50年に新郵便局舎が建てられたことで局舎の役目を終えた時はブルーグレーの外観だったという。改修工事の際、桜色を覚えている人に聞いて復元した。

 

建物を活用しカフェに 吐田郷地域を活性化

 旧名柄郵便局は明治35年、郵便受取所として開設。大正2年、木造平屋建て、寄棟屋根に洋風のたたずまいの同局が完成し、同時に電話の取り扱いが始まりました。出入口から向かって右方向に、電話交換用専門の扉があったそうです。

 閉鎖後の平成25年。貴重な歴史的産業遺産として改修。美しく生まれ変わった建物は郵便資料館として、また名柄を含む吐田郷(はんだごう)地域の活性化を担ってカフェができました。同カフェは「はがきの名文コンクール」の宛先になっています。今年は9月13日締切です。

 

カフェ営業中は内部無料見学可。
トイレ使用も可。

 

旧名柄郵便局

住所

御所市名柄326-1

アクセス

近鉄御所駅から約5km。駐車場あり。

TEL

0745・60・8386

公開日=営業日

火・水曜日
火曜日・水曜日を除く11時~16時

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吉野神宮(県指定文化財)【吉野町・大正12年~昭和7年築】

 総ひのき造の社殿は、大正12年から昭和7年にかけて行われた再整備により造営された。今年3月には、社殿の配置などに独自性があるとして、県指定文化財にも指定された。

 

近代神社建築の代表作 本質を大切にした品格ある社殿

 明治天皇の意向により、第96代後醍醐天皇を祀る「吉野宮」として創建され、昭和7年に完成した現在の社殿は、内務省様式による美しい本殿や入母屋造の風格ある拝殿など、近代神社建築の代表として知られています。
 後醍醐天皇の京都への思いに応え北面し、本殿から一直線に京都を望む配置となっています。彫刻などはなく簡素ですが、自然と調和した静かな境内にあり、本質を大切にした品格のある社殿です。「社殿の美しさとともに、国の行く末と民の安寧を思い続けられた後醍醐天皇のお力を感じていただけると思います」と東輝明宮司 。

 

本殿から大鳥居を通り、一直線に京都を望む。

 

吉野神宮

住所

吉野町吉野山

アクセス

近鉄吉野神宮駅より徒歩20分。

TEL

0746・32・3088

参拝時間

8時30分~17時

駐車場

あり

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黒滝村旧役場庁舎(県指定有形文化財)【黒滝村・明治43年築】

 パステルグリーンの外壁が特徴。本館1階ホールの型押鉄板天井は国内で他に現存するものが数例しかなく、貴重な文化財になっている。天井が高く音の反響も良いことから、音楽コンサートなどに利用されることも多い。

 

明治の吉野林業を伝える山深い地に斬新なモダン建築

 吉野材木黒滝郷同業組合が事務所として建築。当時の黒滝村は、吉野杉や桧の一大生産地であり、同組合は、かなりの好景気が続いていたといいます。建物は、銀行や旅館が軒を並べ山上参りの行者が行き交うような、にぎやかな場所に建てられました。山深い黒滝の地に当時としては斬新な洋風の建物が建設されたことは意義深く、今でも当初の形式がよく保存されていると評価を受けています。大正2年から黒滝村役場庁舎として使用され、昭和53年に庁舎新築に伴いその用途を終了。庁舎新築の際には、村民有志から当時の時価1億円となる山林の寄付を原資として現在の庁舎を新築しています。

 

現在本館1階は多目的ホール、2階を民俗資料館として利用。

 

黒滝村旧役場庁舎

住所

黒滝村粟飯谷1(黒滝・森物語村内)

アクセス

近鉄下市口駅からバス。「309総合案内センター前」下車徒歩約20分。

TEL

0747・62・2770

公開

9時~17時・年中無休。入場無料。

駐車場

あり

地図

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※このページの内容は2021年9月3日現在のものです。

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