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新米の季節 知っておきたい奈良産米の魅力
いよいよ新米の季節がやって来ました。奈良県でも早い地域ではすでに収穫を終え、平地でもそろそろ稲刈りの風景が見られるころです。今年は米価格の高騰や備蓄米の放出など、何かと米が話題となりました。私たちの食卓に欠かせない米 ―。改めて奈良県で作られる米の魅力ついて紹介します。
7割以上はヒノヒカリ 暑さに強い品種も模索
奈良県で作られている主食用米の作付面積は7,960ヘクタール、収穫量は41,900トンでどちらも都道府県別で全国41位と決して多くはありません(令和6年産)。しかし、夏は暑く冬は寒いという寒暖差が大きい気候と、4000カ所以上あるため池や戦後整備された吉野川分水などの水源にも恵まれ、平地をはじめ、中山間地でも米作りが行われています。
平地で作られている米は主に県の奨励品種でもあるヒノヒカリで、県内で作られる米の73・2%を占めています(令和6年度産)。
JAならけんによると、ヒノヒカリは「つやがあり、粘りが強く、食感がある」という評価を得ている品種で、冷めてもおいしいとのこと。奈良県の気候が栽培に適しているといいます。
しかし近年の温暖化により、より高温に適したヒノヒカリに替わる後継品種を、奈良県とともに探しているとのことです。
ほか、中山間地では冷涼な気候を生かし、ひとめぼれやコシヒカリなどが作られています。
JAならけんの担当者は「農家が頑張って作る米を、どんどん食べてほしい」と話します。
県農業水産振興課によると、現在のところ奈良県では深刻な水不足の影響も受けず、順調に生育し、昨年並みの生産量が見込まれているとのこと(8月15日農林水産省発表)。
また、県では米農家の赤字経営をなくし、集落農業につなげたいと、3軒以上の農家で2ヘクタール以上の作付面積があるグループを対象に、苗づくりに補助金を出す取り組みも、今年度から始めています。
※特別栽培米
その地域で慣行的に行われている節減対象農薬および化学肥料の使用状況に比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下で栽培された米(農林水産省のHPより)
米の価格 皆さんどう思いますか?
今年、米の販売価格が上がり、大きなニュースになりました。
一つの試算があります。5kg4000円の精米で茶碗1杯はいくらでしょうか。
茶碗1杯のご飯の量を150gとすると、必要な米は約65g。そうすると、茶碗1杯は約52円となります。この価格を高いと見るか、安いと見るか…。
主食として、私たちの食卓に欠かせない米。皆さん、いかがでしょうか。
奈良のこだわり米農家
奈良県でも、いろいろな工夫を凝らし、特色ある米づくりを行っている農家がたくさんいます。その一部を紹介します。
目次
天空のほほえみ【奈良市】
土の力で米作り 食味コンクール受賞経験も

奈良市都祁吐山町で、有機と乳酸菌を活用してコシヒカリを育てる。第15回お米日本一コンテストinしずおかで最高金賞の受賞経験のある米は、リピーターも多い。土づくりは、稲刈り後すぐにスタート。わらやもみがら燻炭(くんたん)などの有機物を土に混ぜ、土の中にいる微生物を活発にすることで、土に活力をもたらす。
土作りから心を込めて 大和高原米の向上も目指す
天空のほほえみを育てる中山廣一さん(76)は、定年退職を機に米作りを始めました。続ける中で、化学肥料に疑問を感じ、自然の力によった米作りに取り組むようになりました。刈り取り後の田に有機物を混ぜ、乳酸菌の活動を活発にし、ふわふわの良い土を作ります。さらに大和高原は寒暖差があり、冷たい山水が流れ込む地理的条件にも恵まれていることで、良質の米を収穫できます。
また、中山さんは大和高原米の資質向上と知名度の向上を目指し「大和高原・米・食味向上委員会」を立ち上げ、所属メンバーで勉強会やPR活動に取り組んでいます。「メンバーが作る米は素晴らしいものばかり。天空のほほえみを含む大和高原米をぜひ味わってほしいです」と話しました。

【データ】
天空のほほえみ舎のHPで販売
販売場所
まほろばキッチンJR奈良駅前店(奈良市三条本町1098)
TEL:0742・33・8318
つげの畑高原屋(奈良市針町345 針テラス内)
TEL:0743・82・5633
さとる米【天理市】
自然との対話を大切に 肥料や農薬を使わない米作り

樫本哲さん(53)が、天理市高原地域で栽培期間中に化学肥料や農薬を使用せず育てる「さとる米」。標高約450mほどで、高原地域特有の冷涼な気候に恵まれ、山から流れ出る冷たい水が米を育む。除草は発酵させた米ぬかを使い、その後肥料成分に変化して成長を促す。人の力は最小限を目指す。
豊かな恵みを届けるため 人と自然に優しい栽培
天理市高原地域で、会社員として働きながらコシヒカリを育てています。家庭の事情で急遽米作りを始めた樫本さん。最初は化学肥料と肥料があれば簡単だろうと始めましたが、思いのほか上手く育たなかったことをきっかけに真剣向き合う事になったそうです。
まずは農薬を減らすことから始め、ついに化学肥料の使用もやめました。農薬と化学肥料をやめてしばらくすると土がきめ細かくなり臭みも消えたそうです。
樫本さんは「土や天気・水・温度・苗の様子など年によって条件は異なります。それと向き合って試行錯誤するのかとても楽しいです」と話します。

★稲田酒造「福須美」は、樫本さんらが特別栽培米に準ずる栽培方法で育てたコシヒカリを使用しています。
【データ】
天理市のふるさと納税品にも採用
販売場所
旬の里まみが丘(北葛城郡広陵町疋相489-1)
TEL:0745・51・5144
みのりの里しらにわ(生駒市南田原270-2)
TEL:0743・20・6741
明日香村地域振興公社 あかねさす【明日香村】
美しい棚田の風景を守り 農業活性化目指す

明日香村の歴史的風土と美しい景観を守ろうと、耕作されなくなった農地を同公社で借り受けて、5年前から取り組みをスタート。日本の棚田百選に選ばれた稲渕地区で、昔ながらの天日干し(はざかけ)による手法と定められた基準に基づいた「特別栽培米(※)」として栽培。昼夜の寒暖差が大きく、また飛鳥川の清流に育まれた大粒の米を厳選して販売する。
昔ながらの手法で うま味の詰まった米作り
農村の原風景ともいわれる、明日香村の棚田。この美しい風景を守り、また村の農業活性化のため、明日香村地域振興公社が、高齢化などにより耕作されなくなった農地を借り受けて取り組みを始めました。品種はヒノヒカリ。昼夜の寒暖差により甘みを蓄積、また「はざかけ」と呼ばれる、昔ながらの天日による乾燥を行うことで、より一層甘みを蓄えるそうです。
10月中旬に刈り取りを行い、およそ2~3週間かけて天日干しにし、11月下旬から12月上旬ごろに販売開始を予定しています。「今年は水不足でかなり苦労しましたが無事稲穂が見えてきました。ここから刈り取りまでは獣害対策をしっかりして、少しでも多く収穫できるようにしたいです」と、業務運営係長の吉田裕晶さん(51)。

【データ】
明日香村地域振興公社
TEL:0744・54・9200
同公社HPで販売予定(数量限定のためなくなり次第終了)
販売場所
あすか夢販売所(明日香村御園2-1)
TEL:0744・54・5670
あすか夢の楽市(明日香村飛鳥225-2)
TEL:0744・54・3311
明日香の夢市(明日香村島庄154-3)
TEL:0744・54・9450
まぁまぁ農園【橿原市】
米作りは日々の暮らし 自分が食べたい米を作る

農薬も肥料も一切使用しないで米作りをしているまぁまぁ農園の上田かおりさん(66)。米作りの様子を見学したり、関わりをもってくれた人に米を販売。「米作りに関心を持つことで、食への興味を深め、暮らすとは何かについても考えてほしい」とのこと。「うちの田んぼはとっても美しいよ」と話す顔が輝く。
稲刈りを見に来て 食への関心と暮らしのヒント
明日香村や橿原、三輪周辺に田んぼを持ち、農薬も肥料も一切使わない栽培方法で、米作りをしている同農園。「私がやっていることは特別なことではありません。自分が食べたいものを作っているだけ。ゆえに、実際、米作りの様子を見たり、関わることで、苦労して作っているんだということをわかってくれる人に買ってほしい」と言います。昨年は1㎏1500円で完売したそうです。「米作りに関心を持つことで、食べることに興味をもち、暮らすとは何ぞやということに気付いて」とも。間もなく収穫の季節。「ぜひ稲刈りを見に来てほしい」と話します。

【データ】
1㎏1500円で限定販売(米作りに関わってくれた人優先)。明日香村、橿原市、桜井市の三輪周辺に田んぼあり。作業はその日によって替わるため、事前連絡必。
TEL:090・2061・6513
※InstagramのDMでも可能。
吉隠米ブランド化推進プロジェクト会議 吉隠米【桜井市】
万葉の歴史残る吉隠で 棚田の風景を残したい

宇陀市との境界にある吉隠(よなばり)地区では古くから稲作が行われ、美しい棚田の風景が残っている。その風景を守ろうと、地域の住民が共同で耕作。土地に高低差があることから、ヒノヒカリのほか、ひとめぼれ、キヌヒカリ、まなむすめを栽培。そのうちヒノヒカリ、ひとめぼれの2品種を「吉隠米」として販売している。
公民館活動から広がり 地域で集まって稲作を
桜井市吉隠地区は、日当たりも良く、大和川水系の上流に位置することから水にも恵まれているため、古くから棚田で米が作られ、おいしいと定評もありました。しかし、作る人が減ると棚田の風景も荒れてきます。そこで、5年ほど前から地域のメンバーが共同で耕作し、できた米を色や粒の形で選別した上で「吉隠米」として販売しています。
その背景には、公民館を地域の活動拠点として地域活動が盛んに行われ、「地域みんなで活動する」土壌ができていたことがあるといいます。
グループであれば作業も早く済みます。「できる範囲で楽しいことをして、充実した毎日を過ごしたい」と代表の竹田勝彦さん(68)。養蜂など新しい取り組みも始めているそうです。

【データ】
「吉隠米」ブランド化推進プロジェクト会議
TEL:0744・47・7872
★「吉隠米」は収穫後にHPで販売。11月23日(日)10時~16時、吉隠公民館(桜井市吉隠726)で開催する「吉隠収穫祭2025」でも販売予定。また桜井市の大和さくらいブランドにも認定され、ふるさと納税の返礼品にもなっている。
林商店 大和広陵米かぐや【広陵町】
有機肥料100%使用し より食味の高い米を

奈良県の奨励品種であるヒノヒカリを3種類の作り方で生産。通常の栽培方法で作った米と減農薬、有機肥料を50%以上使う特別栽培米(※)に加え、かぐや姫の町・広陵町にちなんで竹を利用した肥料を使って有機肥料100%の米を栽培。「大和広陵米かぐや」と名付け、同店オリジナルの特別栽培米として販売している。
土づくりが大切 新しい品種の生産も
奈良盆地のほぼ中央に位置する広陵町を中心に、30町以上の田で米作りを行う林正樹さん(47)。「かぐや姫の町」にちなんで何か面白い米を作りたいと、3年前から竹パウダーを肥料に使った米を作り始めました。冬、稲の植えられていない時期に竹を砕いてパウダー状にしたものを土にまき、すき込みます。竹には乳酸菌が多く含まれており、有機肥料を多く使うことで、根にハリも出て茎も強くなり、高温にも強くなるといいます。
有機肥料を使うと料金も高くなりますが、食感や粘り、甘みが違うと、県外からもこの米を買いに来る人もいるそうです。
また、奈良県初の酒米である「奈々露(ななつゆ)」の生産も行うなど、新しい品種の栽培にも取り組んでいます。

【データ】
林商店
住所:広陵町百済2068-2
TEL:0745・55・0205
営業時間:9時~19時
定休日:水曜日
★お米は同店で小売り販売しているほか、配送(送料別途必要)も可能。近隣であれば配達にも対応しています。令和7年度米は稲刈りが終わり次第、10月中旬より販売予定。広陵町のふるさと納税返礼品にもなっている。
※このページの内容は2025年10月3日現在のものです。