漢方養生で日々健康~体質を知るともっと元気になれる~vol.48 「季節性の気分変動~冬季うつ~」にお悩みの方へ
漢方理論をもとに女性の悩みに応えてきた一陽館薬局のかしたに陽子さんに、健康を保つ秘訣を聞く連載企画。今回は、季節の変わり目の中でも晩秋から冬にかけて起こりやすい、「冬季うつ」についてのお話です。

冬特有の不調「冬季うつ」
毎年、晩秋から冬にかけて、「なんとなく気持ちが沈む」「朝起きるのがつらい」「甘いものばかり欲しくなる」「ダイエットがうまくいかない」など感じていませんか。
季節の変わり目の不安定感とは違い、"冬特有の不調"は日照時間の減少が引き金となって起こる気分変動で「冬季うつ(ウインターブルー)」として分類されています。
女性や若年者に比較的多いとされ、日本では、2%程度に疑いがあるという報告があります。またうつ病の人の10~20%が"冬季うつ"を経験するともいわれています。
「過眠・過食・体重増加」が特徴
冬季うつは、うつ病の一種ですが、一般的なうつ病と大きく異なる点があります。うつ病が「不眠・食欲低下・体重減少」を伴いやすいのに対し、冬季うつは「過眠・過食・体重増加」が目立ちます。
特に炭水化物や甘いものが無性に食べたくなる「夜のドカ食い」は、まるで冬眠準備のように表現されることもあるほどです。
以前は楽しめていたことへの興味が薄れ、憂うつ感や無気力感が続きますが、春になると自然に改善する点が特徴です。
「光の不足」が幸せホルモン・睡眠ホルモンに影響
冬に心が沈む理由として、脳内で働く"光とホルモン"のメカニズムがあげられます。
冬になると、朝の太陽光を浴びる時間が自然と減ります。
この「光の不足」が、脳内のセロトニン(=幸せホルモンとも呼ばれます)を低下させてしまいます。セロトニンは気分を安定させ、意欲を高め、体のリズムを整える役割をもつ物質ですから、日照が少ない北欧で冬季うつが多いのは、このセロトニンの低下が顕著に起こるためと考えられています。
さらに、セロトニンを材料につくられるのがメラトニン(睡眠ホルモン/ダークホルモンとも呼ばれます)で、朝日を浴びるとメラトニンは減少し、夜に増えることで眠りへ導いてくれますが、日光をあびる時間が少ない冬はこの分泌リズムが乱れやすくなります。
(1)幸せホルモン「セロトニン」が減る
セロトニンは、心の安定や前向きさを生み出す物質で、俗に"幸せホルモン"と呼ばれています。
日光を浴びることで分泌が高まりますが、冬は光が不足し、セロトニンが減りがちになります。
(2)睡眠ホルモン「メラトニン」が過剰に
メラトニンは夜に増える"睡眠ホルモン"です。日照時間が短くなると分泌リズムが遅れ、体内時計が狂いやすくなります。
その結果、朝起きにくい、日中も眠い…といった"冬眠モード"に傾きやすくなります。
(3)セロトニン → メラトニンのバランスが乱れる
メラトニンは、セロトニンを材料につくられています。
「光不足 → セロトニン減少 → メラトニンのリズム乱れ」という悪循環で、気分の落ち込みや過眠が起こりやすくなるのです。
光に敏感な人やストレスが多い人は症状が強く出ることも
このように"冬の不調"は連鎖的に起こるため、変化に敏感な人は、光の影響を受けやすく、ウインターブルーに陥りやすい傾向があると考えられます。
《冬季うつに多い特徴》
次のような状態が秋~冬に強まる場合、冬季うつの可能性があります。
●朝、布団から出られない・強い眠気が続く
●気分の落ち込み・無気力・焦燥感
●甘いもの・炭水化物(パン・麺など)が無性に食べたくなる
●眠っても眠っても眠い、日中の眠気
●気力が出ず、やる気がわかない
●体重増加
●人に会いたくない、何事もおっくう
●春先になると自然に改善する
ある程度 "誰にでも起こり得る季節反応" でもありますが、光に敏感な人や、普段からストレスが多い人は症状が強く出ることがあります。
「光」「生活リズム」「栄養」「運動」でセルフケアを
冬季うつは、生活の工夫で改善が期待できるため、「光」「生活リズム」「栄養」「運動」の4つをポイントにセルフケアもおすすめです。
◎朝の光をしっかり浴びる
冬季うつ対策の基本は、とにかく"光"です。晴れの日は5~10分でも外へ出ましょう。朝の散歩、お昼の外出、窓際で作業するだけでもセロトニンを刺激できます。
◎生活リズムを丁寧に整える
冬は"季節の時差ぼけ"が起きやすく、体内時計がズレてきます。毎朝の起床時刻をそろえ、夜更かしを控え、食事時間を乱さないことが大切です。光とリズムは、脳の調整力を大きく左右します。
◎トリプトファンを含む食事を意識する
セロトニンの材料となる必須アミノ酸「トリプトファン」は、肉・魚・大豆製品・卵・チーズなどに豊富に含まれます。ビタミンB6、鉄、マグネシウムなどと一緒に摂ると代謝がスムーズになります。冬は「鍋+豆腐+魚」「卵料理+野菜」を意識すると、効率よく補えます。
◎リズム運動でセロトニンを呼び覚ます
ウォーキング、ゆったりしたジョギング、踏み台昇降などは "一定のリズム" が脳を刺激し、セロトニンの分泌を促してくれます。1日10分からでも効果的です。気分を整える自律神経にも良い影響があり、睡眠の質も改善します。
漢方では気を巡らせ、エネルギーを補い、睡眠リズムを整える処方を
冬は寒さのために活動量が減り、どうしても屋内にこもりがちになります。
その結果、光不足・運動不足・栄養の偏りが重なり、冬季うつに陥りやすい条件が重なりやすい状況となります。
不調が続くと「気持ちが弱いから」と自分を責めてしまうこともあるかもしれませんが、"光という環境の変化"に自然と体が反応しているだけととらえ、環境を丁寧に調えることが大切です。
一人ではなかなか改善が難しい場合は漢方でもサポートできます。
漢方的には冬は陽気が弱まり、気持ちも身体も内向きになりやすい季節ととらえます。気を巡らせ、エネルギーを補い、睡眠リズムを整える処方が役立つことがあります。
〇気を巡らせて重だるさ・気分の停滞を和らげる処方
〇心身の疲れを補い、朝のだるさにアプローチする処方
〇自律神経の乱れや不安を整える処方
一人ひとりの体質と症状に合わせて調整することで、「冬になると毎年しんどい」という方の支えになることが少なくありません。
光・生活リズム・食事・運動、そして必要に応じて漢方薬などをうまく組み合わせながら、心も体も温かく冬を過ごせるよう整えていきましょう。
※このページの内容は2025年12月19日現在のものです。









