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農業が好き!生産者の思い伝えます。第2弾
目次
ゲミューゼ【奈良市・大和郡山市】
視野が広い若手農家
(左)島田さん。(右)藤井さん。
奈良市の畑を背景に。
学生の時から会社設立 福祉を目指して組織に
近畿大学農学部在席の時に企業しゲミューゼを設立しました。
ゲミューゼはドイツ語で野菜の意味。ゲミューゼ=Gemüseはドイツ語で野菜の意味。Üの部分が笑っているように見えたことでこの名前に決めたそうです。
代表の島田優さんは、卒業して学生農業団体を解散し、同級生の藤井さんと一緒にゲミューゼの名前そのままで株式会社を設立しました。農業だけでなく、大学で学んだ福祉のこと、食育の事業を並行して運営しています。福祉事業所に、暑い時も寒い時も関係なく、農業を教えています。障害が重い人でも、農作物相手の仕事は、落ち着いてできるそうです。農業はどんな人も社会に貢献できる職業なのです。
パートの人6~7人と大学の後輩に畑を手伝ってもらいながら奈良市と大和郡山市の畑を運営しています。
トマトは治道トマトの先駆者から指導を受け、大和郡山市のハウスで作っています。ハウスを1つの地球と考え、肥料は実を付ける分だけ与え、トマトのシーズンが終わったあと、株をハウス(地球)の外に出すことなく土に還元します。
また奈良市の大和田農場はニンジン、ジャガイモ、ウーハン(コイモ)、紅はるか、タマネギ、オクラなどを栽培。次はマコモダケを栽培しようと試験的に植えています。イノシシから常に作物を狙われるため、畑の周りは電柵を設置。全農地で現在3ヘクタールです。肥料は大和牛のたい肥を使用。大和田農場では栽培期間中、化学肥料や農薬不使用です。
学生時代にお金を貯め 世界を巡り農業を見る
金魚、鯉、メダカが好きな島田さん。
生態観察を兼ねて敷地内で飼っている。
島田さんは大学生の時にアルバイトでお金を貯めて、海外に行きました。それからコロナが流行するまで毎年のように海外に出掛け、ドイツでは自転車で移動し森や畑を見学。キューバでは経済状態を学び、1日5回停電するネパールでは牛で耕す農地を見てきました。ここにきてやっとコロナも落ち着いてきたこともあり、2023年までに3カ国を訪問予定。将来、海外支援ができないか思案中です。
「それにはまず国内で勉強して、他国を知ること。自分的ノウハウができていくのだと思います」と島田さん。
奈良市の畑は、農家の高齢化が進んで委託する人が増え、もっと農地が広がる予定です。販路も知り合いから紹介されて広がっていきました。
さらに島田さんは近畿大学農学部の非常勤講師も務めます。学生たちには視野を広くもち、見識を持ってほしいと考えています。いつか学生の中から将来ゲミューゼの代表になる人がいるかもしれません。
取材日:2022年5月31日
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松田果樹園+【天理市】
刀根早生柿発祥の地で柿農家
農園主の松田夫妻。
庸子さんが持つ柿チップはMサイズ200g前後の柿を3玉使っている。
バイヤーに好評。
夕日が長い坂道の畑 色濃く糖度も高い柿
天理市萱生(かよう)町は、地形がなだらかな坂になっており、夕日が全域にわたって長い時間当たるようになっている土地です。
同園の畑も夏至は19時30分くらいまで日光が届きます。太陽の恵みで柿の色も濃く色づくようです。
「先日、見本市に柿チップを持って行ったんですよ。そしたら『これは着色しているのか?』とバイヤーにいわれたので、付けていないことを伝えると驚かれました。それくらい色がきれいで味が濃いんですよ」と同園主の松田崇史さんは話します。
同園で使う肥料は3年熟成した豚ぷん、黒酢。それは松田さんの家族が使う年間医療費より高いそうです。
「人間でいうと発酵食品の味噌汁を与えているようなもの。こうして育った健康な柿は虫から防御する力を持っています。また土はふわふわです。シカは健康な葉を狙っているし、イノシシはミミズを狙ってくるので、うちの畑はネットで囲いをしています。それでもネットをぶち破って入られることあるんですよ。うちの畑だけ狙われている気がします」と語ります。
プラスは加工部門 管理栄養士が監修
小さな実をのぞかせる柿の木。
花がらを手で取っていく作業をする崇史さん。
松田果樹園は数年前に「松田果樹園+」となりました。+(プラス)は加工食品部門のこと。管理栄養士の松田庸子さんが担当しています。
ジャム、ジェラートは庸子さんのレシピ。はっさくジャムは、ツブツブが分かるくらい丁寧に袋から外しています。甘夏ジャムは皮の部分をバランスよく配合し、みかんジャムは子どもが食べやすい味わいに仕上げました。また柿ジェラートは色も味もそのままの品質。ここまでの出来は他に類を見ない出来なのだそうです。
同園の柿は渋柿です。渋戻りがないように加工段階で工夫しています。ジェラートはキウイ、イチジク、スモモなど。果実は加工用に栽培しています。
「加工品は改善していくため、研究を続けています。ゆっくりですが加工品の種類を増やしていくつもりです」とやさしい笑顔で語る庸子さん。
松田家は今、子育て真っ最中。「子どもに安全なものを作りたい」とエコファーマーとしても活躍しています。
取材日:2022年5月31日
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まるみ農園【五條市】
谷間の急斜面が畑
ビワの色を確認。
収穫する宮尾さん。
家も畑も石ガラの上 ビワに最適な風土
まるみ農園は和歌山と県境の五條市側、山の谷間の急斜面にあります。農園の入口まで坂道を歩いて登り、ようやく袋掛けしたビワの木々を目にすることができました。
ビワの花は11月ごろから咲き始めます。4月10日くらいから5月10日までの1カ月間、摘果と袋掛け、剪定を同時にします。急斜面に、はしごを掛けてする作業は命がけだからです。
ビワの木は全部で60本ほど。摘果して1つの枝に2つの実を残します。1本の木で約600個の実ができます。ただしそのまま600個を収穫することはまずありません。下の方の実は鹿やイノシシに食べられます。時にはカモシカも実を狙います。鹿は実だけでなく、木の皮も食べてしまうので、枝を枯らしてしまいます。さらに上の方は袋を鳥が突いて破き食べるのです。不作の年は野生動物の被害が増えます。農園全体を柵で囲ったり、ネットをかぶせたりするのは難しい地形です。そのため収穫ができない年もあります。
雑草が土地を守る ビワの根も広がって
ビワの木の状態を説明する・まるみ農園園主の宮尾さん。
まるみ農園は農薬なし、除草剤なしが栽培方針。まるでオーガニックを目指しているかのようです。実際、除草剤を掛けてしまうと、がけ崩れが起こります。雑草の根が岩や石の動きを止めているのです。
畑は岩がたくさんあるうえに土はほんの少ししかありません。ビワは岩の隙間をめぐり根を張ります。
6月、雨が続き過ぎたら腐ってくるし、晴れた日が続き過ぎたら実が割れてしまいます。こうして無事収穫できた時は喜びもひとしお。顧客に送ることができます。
ビワの品種は「田中」。酸味と甘味のバランスがよい品種です。ビワの酸味は雨が降ると少なくなってきますが、太陽に当たると甘さが増します。ビワの収穫は梅雨の終わりごろ。早くて6月末、7月上旬までが最盛期です。
まるみ農園のビワは、まんべんなく日が当たるように影をつくる枝葉がありません。防虫剤入り袋で守られて、オレンジ色が濃くなったら収穫です。
「ここは昔から気流の関係で霜が降りません。日当たりも良く、ビワにとって良い環境だったと思っています」と園主宮尾憲明さん(65)は話します。
取材日:2021年6月22日
●奈良のうまいもん通販でビワを販売。2022年度は不作のため販売中止
※このページの内容は2022年9月16日現在のものです。