認知症とともに歩む【5】大学生による認知症を啓発する活動「Orange Project(オレンジプロジェクト)」
「Orange Project(オレンジプロジェクト)」とは、「認知症になっても安心して暮らせるまちづくりに貢献する」をコンセプトに活動している学生チームです。この活動を奈良県で行っているのが畿央大学。その立ち上げに関わった四天王寺大学看護学部長の山崎尚美さん(56)に大学生が認知症について学び、啓発活動を行う意義について聞きました。
認知症になっても安心して暮らせるまちづくりを
「Orange Project(オレンジプロジェクト)」は、2015年に熊本大学で有志が集まる学生サークルとして始まりました。当時、熊本大学で老年看護学を指導していた准教授の安武綾さん(現熊本保健大学准教授)が中心となって立ち上げ。看護を勉強している学生以外も含めて、学生が認知症を啓発する活動を行っていました。
山崎さんは、畿央大学で老年看護の授業を担当していた時、安武さんと交流を持ちました。そこで、畿央大学でもできないかという話になり、関西で初めての「Orange Project」として学生サークルが立ち上がりました。
サークル活動としては、認知症サポーター養成講座を行ったり、認知症カフェの手伝いなどです。畿央大学のある広陵町と連携して「Run伴」という、認知症の人や家族、支援者や一般の人がリレーをしながら、一つのたすきをつなぐイベントも行いました。しかしながら、コロナ禍になり、認知症カフェも閉鎖されるなど活動が難しい状態に。
そんな中でも、2020年・2021年にはNPO法人認知症フレンドシップが開催した「多世代まちづくりプロジェクト~学生とともに考える認知症まちづくり~」というオンラインでのコンペで、畿央大学は「絵本・紙芝居で子どもから社会へつなげよう」というテーマで参加者賞を受賞。その後、認知症を子どもに分かりやすく伝える内容の紙芝居を実際に作成し、オンラインで鹿児島県や大阪府下の小学生に披露するなど、活動を続けています。
認知症になっても安心して暮らせるまちづくりを
大学生が認知症の啓発について取り組む意味について、山崎さんに聞きました。
認知症のことはよく知られるようになってきています。しかし、「認知症になったとしても恐れなくていい。認知症になってもいい世の中に」という認識にまでは至っていないのが現実です。実際に認知症になった高齢者や家族は介護や対応に必死になり、そんな意見を聞ける状態ではありません。
そこで、考え方が凝り固まっていない大学生や、もっと小さい小学生のうちから認知症について正しく知り、学んだことを家で話すことで大人にも伝わっていってほしいとのこと。小学生も、大人が伝えるより大学生のお兄さんやお姉さんとの交流の方が受け入れられやすいそうです。
また若い世代ならではのアイデアが出ることもあります。学生にとっても、大学の外の意見を聞くことができたり、社会と繋がりをもてるというメリットもあります。
いかに自分の生活を守り続けるか
老年看護の研究に長年携わる山崎さんに、認知症ケアについてのアドバイスを聞くと、「一生懸命せず、肩の力を抜くと良い」とのこと。介護をする人自身が元気でないと介護もできません。我慢をしてストレスをためてしまうと、そのはけ口が介護する相手に向くなど、悪循環となります。
いかに自分の生活を守り続けられるかが大切。一人で抱え込まず、サービスを利用すること、辛い時は本人と距離を置くことも必要です。また「介護離職しないこと」と山崎さんは言います。
そのためには、認知症に優しい地域社会になることが求められます。「子どもたちが認知症について学び、家族に伝われば、その地域は優しくなる」。山崎さんはそう願っています。
山崎さんの次の目標は、今年の4月から赴任している四天王寺大学でも「Orange Project」を作り、関西にサークルの輪を広めることです。柔らかい思考をもつ若者から認知症への理解が広まれば、認知症の人に優しい世界がやってくるかもしれません。
「Orange Project」メンバーに聞く
現在、畿央大学で「Orange Project」として活動しているメンバーに話を聞きました。
前部長の下村優月さん(21)は、元々ボランティア活動に興味があり、認知症の祖父を介護する祖母の姿を見て、認知症について詳しく知りたいと思いサークルに入りました。3回生で現部長の大久保翼さん(20)は高齢者と話すことが好きなため、関わる機会を持てるサークルに。同じく3回生の寺下慎之介さん(20)は、中学の時に職業体験で老人ホームに行った経験から、大学に入って認知症について知りたいと思ったそうです。
この3年はコロナ禍のため活動も制限されましたが、今年に入って外部での活動もできるようになりました。広陵町内の介護施設で定期的に開かれる認知症カフェの手伝いでは、催しの準備から、当日も積極的に声を掛けるなど来場者と触れ合っています。大学生が手伝うことで、会に活気も出てくるそうです。
また紙芝居を使って、子ども会で認知症について分かりやすく伝えたり、別の介護施設を運営する企業からも、施設の催しのボランティア依頼が来ているといいます。
こうした活動を続ける中、下村さんは「当事者の思いを聞くことができて良い経験になった」とのこと。それまで認知症の人は安全のために外出しない方が良いと思っていましたが、実は当事者にとっては苦痛で、自分ができることはやりたいと思っていることに気付いたと言います。
大久保さんはアルバイト先のグループホームで認知症の方と触れ合う中で、個人差が大きいことに気付きました。「一人ひとりの個性に合わせた関わりをしたい」と話します。
サークルに入るまで認知症について知らなかったという寺下さんも「制限するだけではためにならない。一人ひとりに優しく声を掛けていきたい」とのこと。
現在、サークルの活動を支えている畿央大学健康科学部看護学科助教の島岡昌代さん(54)は、「授業や実習だけでなく、いろいろな体験を通して認知症について学ぶ機会ができ、認知症への意識が高くなっていると感じる」とサークルの意義について話します。
サークルによる紙芝居などは、大学を通じて出演依頼も受け付けています。
◆全国のオレンジプロジェクトについて
https://www.orange-project.org/
◆紙芝居や畿央大学オレンジプロジェクトへの問い合わせ
m.shimaoka@kio.ac.jp
※このページの内容は2023年8月25日現在のものです。