漢方養生で日々健康~体質を知るともっと元気になれる~vol.22「感染後不調」にお悩みの方へ
漢方理論をもとに女性の悩みに応えてきた一陽館薬局のかしたに陽子さんに、健康を保つ秘訣を聞く連載企画。今回は、この数年で多くの人が感じていると思われる、「感染後不調」についてのお話です。
不調と関連する機能を補って体質に応じて働きを整える
"新型コロナ"といわれたウイルス感染も共存を求められる時代になりましたが、長期間の感染対策を経て生活そのものも変化し、これまで経験したことのない「抵抗力の弱り」を感じているという声が聞かれるようになりました。
ニュースなどでもさまざまなエビデンスが報告されるようになり、漠然とした不安感から解放される反面、現実に向きあう必要性を実感する機会も増えてきました。
中には新型コロナウイルス感染後の後遺症や体調不良が長引いて困っている方もおられます。
感染後不調は、発熱やのどの痛みなど急性期の症状がいったん治まった後も咳が長期間続いたり、数週間経ってから抜け毛、不眠、めまい、食欲不振、だるさ、やる気が出ない、疲れやすい、不安感などの不調が現れることもあるようです。
原因としては、感染による肺や血管、自律神経や中枢神経への障害などが挙げられていますが、まだ不明な点も多く、ストレスも要因のひとつと考えられています。
西洋医学の対症療法では、鎮痛薬、抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬、鎮咳薬などを用いて、主に各症状に応じた治療が行われることが多いようです。
医学的な治療が必要になるほど重症ではなくても、体調不良が続くと日常生活にも支障を来すこととなってしまいます。
漢方薬は体に無理をかけずバランスを整える
後遺症は症状も人それぞれで、程度も予測できないことから、体に無理をかけずバランスを整える漢方薬が注目されています。
漢方的に新型コロナ後遺症の治療を考える場合は、主にウイルスによるダメージそのものや、心身のバランスの崩れ、自律神経の失調などを中心に調整し回復を目指します。
不調と関連する五臓の機能を補い、体質に応じて働きを整えることが漢方治療のポイントです。
①腎のダメージ=腎精不足:「腎虚」
「腎精」とは、生命活動や成長・発育・生殖の基本となる、生命の根本となるエネルギーのことです。
腎は「髄を生じ、脳に通じる」臓腑として、脳の機能とつながりが深い臓器です。感染症の影響で腎精が減少し、脳の機能が低下すると疲労倦怠感、集中力の低下や記憶障害などのブレインフォグ、微熱、脱毛などの症状のほか、女性の月経周期や男性の精子の質などへの影響も報告されています。
腎虚は加齢に伴う体力や免疫力の低下に関係しますので、高齢の方や体力のない方を含め「補腎」作用を主体とした漢方薬をおすすめします。
食材では、エビ、山芋、ぎんなん、牡蠣、クルミ、黒豆などがおすすめです。
生活面では、なるべく早く就寝するようにして、冬は激しい活動を控えましょう。
②心(しん)のダメージ=心気の弱り:「心気虚」
五臓の「心」は「神志(しんし)をつかさどる」臓腑として、人間の意識や判断、思惟などの人間らしい高次の精神活動(神志)を担っています。感染症により心気が弱まると、思考力の低下や、息苦しさ、倦怠感などが現れます。
「心」は、心臓としての働きを含んでおり、血栓や毛細血管などの血行不良、高血圧など「瘀血」を改善する作用をもった「駆瘀血薬」に分類される漢方薬がおすすめです。
食材では、青背の魚、玉ねぎ、ねぎ、ニラ、ニンニク、山椒、シナモン、サフランなどがおすすめです。
「瘀血」は、冷え、ストレス、疲労などによって日常的に起こりやすいので、適度な運動などで血行をよくして少し汗をかいてデトックスしたり、気分転換などを心がけましょう。
③肺のダメージ=呼吸器系の弱り:「肺気虚」
五臓の「肺」は「気をつかさどる」臓腑として、呼吸をつかさどり防御機能を担っています。働きが弱るとかぜや新型コロナウイルスなどの感染症にかかりやすく、嗅覚障害、咳、痰、息切れ、胸痛などの症状や、呼吸器系の後遺症も残りやすくなります。
肺系は鼻・のど・気管支などの呼吸器系、皮膚や粘膜などが含まれ、気温や外気と接っします。そのため乾燥や湿気で調子が変わりやすい性質がありますので、漢方では潤いを補う「補陰薬」がおすすめです。
食材では、蓮根、白きくらげ、ゆり根、梨など潤いを補う作用を持つものがおすすめです。
生活面では、長く続いたマスク着用により、体内への有害物質の侵入を防ぐ反面、より乾燥しやすくなったり気温変化に敏感になる傾向も見受けられます。湿度や室内外の温度差などの変化が大きくなり過ぎないよう、空調や衣類などこまめに調整を心がけましょう。
④脾のダメージ=消化吸収力の低下:「脾気虚」
五臓の「脾」は消化吸収や代謝をつかさどり、気血の源を生成します。感染により働きが低下すると味覚障害や、食欲不振、消化不良、下痢、回復が遅れる、筋力の低下など、脾気虚の症状が残ります。
胃腸の調子と気力の両方を含んでいますので、お腹から元気を増す「補気薬」を用いると、便通も安定し、食事もしっかりとれるようになり集中力や持久力が高まります。
食材では、もち米、さつまいも、大豆、アスパラガス、トウモロコシ、アボカド、うなぎ、かつお、さけ、牛肉、鶏肉、豚肉、など補気作用のあるもの、消化しやすく火を通したものがおすすめです。
生活面では、元気が出ない時は無理せず、休養をとり気力を養いましょう。
⑤肝のダメージ=自律神経の失調:「肝鬱」
五臓の「肝」は自律神経系と関係が深く、体の諸機能を調節し、情緒を安定させる働きを担っています。感染により肝気が失調すると「肝鬱気滞(かんうつきたい)」という状態になり、感情のコントロールが利かなくなり、抑うつ、イライラ、不安感が強くなったり、自律神経のバランスが乱れて睡眠障害、頭痛、めまいなども現れやすくなります。
肝には内臓の肝臓としての働きも含んでおり、新陳代謝や解毒なども担っています。ストレスや老廃物をため込むと肝気の停滞が起こりますので、漢方薬では肝気の鬱結を和らげて流れをスムーズする疏肝理気薬がおすすめです。
食材では、木の芽やうど、ふきなど春の山菜や香りが良いものや、レモンや柑橘類など酸味のあるものがおすすめです。
生活面では、ストレスをため込まないようにうまく気分転換をしたいものです。女性は月経周期によっても変わりますので、生理前などはゆったりと過ごしましょう。春先は気温差や自然界のエネルギーが増すため自律神経のバランスが乱れやすくなりますので、穏やかにゆとりをもって過ごすよう心がけましょう。
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症状は個人差がありますが、ストレスや疲れなど基本的に健康を損なう生活は、どうしても体力や抵抗力の低下につながり、ちょっとした不調も思ったより回復に時間がかかったりします。体調が落ち着くまでは無理せず調子を整えることが大切です。
※このページの内容は2023年10月20日現在のものです。