漢方養生で日々健康～体質を知るともっと元気になれる～vol.23「こころの不調」にお悩みの方へ

　漢方理論をもとに女性の悩みに応えてきた一陽館薬局のかしたに陽子さんに、健康を保つ秘訣を聞く連載企画。今回は、「"こころ"の不調」に悩んでいる方に読んでいただきたいお話です。

患者数はうつ病・うつ状態の患者数を上回る「不安症」

　とても困っているけれど他人には理解してもらえない、どこに相談すればいいかわからない、というお悩みのひとつに「不安」があげられます。
　漢方相談に来られるお客さまからも、ご自身の生活環境に大きな問題はないけれどニュースを見聞きすると不安感が大きくなり辛くなるので、支障のないテーマを取り上げた番組を選ぶようにしているという声も聞かれます。
　気候変動や社会情勢、健康などへの不安感が過剰になって生活に影響を及ぼす状態は「不安症」といわれ、WHO（世界保健機関）によると、日本の推定患者数は、うつ病・うつ状態の患者数を上回り、約1,000万人以上ともいわれているようです。

　国立精神・神経医療研究センターによると「不安症」とは差し迫った出来事に対する恐怖や、将来に対する不安が過剰になり、行動や社会生活に与える影響が、成人は6か月、子どもの場合は4週間、続いている状態です。また、動悸、呼吸困難、震え、発汗などの身体症状が生じることもあるとされています。

　「不安症」は、眠れない、落ち着かない、集中できないなど、うつ病と症状が重なる部分もありますが、「強く」「急激に」「過剰な」不安感が続く場合に「不安症」と診断され、以下のように分けられます。

「社交不安症」
人前に出たり、話をしたりするような、注目や評価を受ける状況に対する不安。

「パニック症」
急激な不安と、動悸などの身体症状を伴うパニック発作を繰り返す。

「全般不安症」
はっきりとした対象に対してではなく、さまざまなことに対する不安。

漢方では心の健康と体の健康は常に一対との考え

　どうしてこんなにも不安なことばかり思い浮かぶのか、考えないようにしようとしても起こる「不安感」について、漢方的に説明してみたいと思います。
　少し受けとめる角度を変えることで、楽になるヒントになれば何よりです。
　漢方には「心身一如」という、心と身体はひとつであるという考えが基本にあり、精神面が安定していると身体の調子も良好だし、体調に問題がなければ気分も良好、といった具合に、常に心の健康と身体の健康は一対であるということを示します。
　さらに心身の状態は、単に「気持ち」や「体質」だけでなく、さまざまな関連性によって成り立っています。

　その一つに五臓（肝・心・脾・肺・腎）と感情の関連として「五志」という理論があり、

  肝＝怒り、心＝喜び、脾（胃腸）＝思い悩む、肺＝悲しみ、腎＝恐れ

と見て取ることができます。
　つまり、漢方の作用として「不安感」が過剰な場合は、関連性の高い内臓の働きを整え補うことで安定に向かうことができるととらえます。
　例えば、「脾」（胃腸）が虚弱な場合は、疲れやすく、やる気が出ず、くよくよ思い悩みやすい傾向がみられ、「肺」が弱っているときは、ため息が増え、悲しみの感情が強くなる傾向があります。
　生命力の元である「腎」が弱っていると恐怖心が強い傾向がみられ、高いところや狭いところ、新しいことなどに対して過剰に恐怖心を持ってしまいます。

「不安感」と関連ある内臓を元気に
相談や話すことも大事

　漢方治療では、「感情」や「気分」も臓腑機能をあらわすサインの一つととらえます。感情や気分を抑えようと働きかけるばかりでなく、発生源である臓腑の気血水バランスを整えれば、健康を害するほどの感情の偏りも自然と軽減されるということになるのです。
　「不安感」と関連のある内臓を元気にしてあげることで、不思議なことに過剰な不安が起こりにくくなっていくのです。
　そして、大切なポイントとして「相談する、話す」ことを挙げたいと思います。
　漢方相談ではどの臓腑が弱っているのか、どの臓腑からのメンタルサインなのか、発生源を見つけるためにも時間をかけてじっくりとお話しをうかがいます。漢方にかぎらず、感情＝「気」を表現することは、内面のネガティブの滞りを身体の外へ排出するという「解毒」の意味合いもあるのではないでしょうか。
　気遣いなく話せる場として気軽に漢方相談をご利用いただくのも解決策の一つとしてご提案したいと思います。

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